はじまりの日(終) 本当の自分のはじまり

はじまりの日(終) 本当の自分のはじまり

(この記事は2011年当時のものです)

 わたしは、自分自身の達成感があまりあがっていないのに、周りできゃーきゃーと騒がれることに戸惑っていました。
 みんなお世辞だろうとか、考え過ぎじゃないとか思っていたのですが、どうもそうではなかったようです。

 弱点のことばかり気にしてスタイルを直そうとしていたわたしは、踊っても踊っても弱点が直らない一方で、お色気度が上がりすぎていたことに気がついて いなかったのです。そして、周りの人たちはセクシーな第一印象に惑わされて、わたしが気にしていた欠点はさっぱり忘れていたのでした。
 もう、自分に低い値札をつけているのは、わたし一人だけになっていました。

 わたしは、まだ自分にそんな価値があるわけがないとおもっていて、投げかけられた恋愛感情をまったく読み取っていませんでした。そうやって、知らないうちに周りの人を傷つけてさえいたのです。
 不釣り合いに大きな女の武器を手にしてしまったわたしは、その威力を知らないで、まるで玩具のように扱っていたのでした。
 むやみにスマイルを振りまいたり、挑発してきたけれど、わたしは自分がなにを引き起こすのかわかっていない。見えないところで、誰かが必要以上に喜んだり、予想もしない理由で落ち込んでいたらどうしよう。

 そんなある夜。
 ディスコに毎週やってくる、現代バレエっぽい踊りをする白人のお兄さんが片言で語りかけてきました。
「あなたはきれいデス。だからもっと真ん中に出てきて、自信を持ちなサイ」
 彼っていつも踊りながら瞑想していると思っていたのですが、わたしのことをそんなふうに見ていたなんて。。

 もう、覚悟を決めるしかありません。
 わたしが自分をどう評価しているかにかかわらず、わたしはとても目立っています。そして目立たないように戻す方法もありません。
 キモいとかキモくないとかいう領域をわたしは気付かないうちに通り過ぎていました。控えめに振る舞うのは、一生懸命に道路の左端に寄ろうとするトレーラーみたいなもので、これはこれで変です。

 わたしは、正しいポジションに立つ必要があります。
 たとえそこでスポットライトを浴びせられても、怖がらないように。

 わたしがこの力を信じられないのは、メイク落としでに消えてしまう幻ではないかと思っているせいです。
 この力が手品ではないと、女でも男でもみんな「わたし」なのだと、自分で信じることが必要です。
 その日から、女のときの好ましい癖を、男のほうにも少しずつコピーしていくことを始めました。

 背筋を伸ばして、膝をぴんと伸ばして歩く癖。
 意見を述べるときに、遠慮しないで、相手の目を見据える癖。
 不意に視線があったときにはにっこり笑ってみせる癖。(←これは本当は変です。)
 相手を怖がらないで、近付いてとけこめる距離感覚。

 鏡でもういちど自分をよく見ましょう。
 背筋が伸びて、2センチばかり高くなって、7~8キロほどスリムになった体。
 内股に固まっていたのが、より速く、大股に、自然に歩けるようになった脚。
 嬉しいとき、人を元気づけるときにちゃんと笑えるようになったこの顔。
 だいぶ、マシになってるではありませんか。

 どういう人を目指せばいいのかわからないまま見切り発車した、この自分改造計画。
 女の自分のほうが理想に近くて、ずっと大きな力を思い通りに操ることができるのは変わりません。
 でも、使えるところを男の方に書き戻して、いまではどちらの姿の時でも両方の力を使えます。
 男の格好でセクシーダイナマイツな踊りを披露したりという、ちょっと変な芸もできます。

 まだ、周囲の認識とわたしのセルフイメージの間にはギャップがあります。
 親しくなった人たちは、男の方がいいよと口を揃えて言うのですが…。
 それでもわたしはこっちの道がいい。
 そう自分で決めて、それが正しいと信じることができます。

 自分で自分に満足できること。
 多くの人にとっては当たり前なことかもしれません。
 何十年もかけてずいぶん遠回りしてきたけれど、やっと自分の評価を±0以上のところまで戻すことができました。

 わたしは、わたしにふさわしい生き方を選んで、ふさわしい生き場所を手に入れて、ふさわしい人と結ばれる。
 ふさわしい道が、やっと、はじまったのだと思うのです。

(完)

トランスジェンダーで会社員でアラフォーで身分上は男子です。 好きなことは踊ることとお絵かきと読書。 いまは嫁と娘が居ます。 2012年の東京レインボープライドを主催していました。

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